援用の法的性質

民法は、時効期間の経過によって「権利の得喪変更」が生じるという体裁を採っている(162条、167条などの文言を参照)。そうすると、実体法上権利は得喪変更を生じているのに手続法上は援用がなされるまでこれが生じていないということになるのか。これが援用の法的性質の問題である。時効の法的構成に関する議論とも絡み合いながら、学説は区々に分かれる。大まかにいえば、1,2の学説は実体法説を、3の学説は訴訟法説を前提とする。

  1. 攻撃防御方法説(確定効果説)
    古い大審院判例がこの見解を採用していたといわれる。時効によって権利の得喪変更は確定的に生じ、援用が必要とされるのは弁論主義の表れの一つにすぎないと論ずる。しかし、弁論主義の対象となるのは時効に限られないのに、なぜ時効だけを、しかも実体法である民法にわざわざ規定したのかを説明できないと批判される。
  2. 不確定効果説
    時効によって生ずる権利の得喪変更は不確定的なもので、これが援用によって確定すると論ずる。「良心規定」という位置づけと一貫した説明が可能であるが、民法の文言と整合しないきらいがある。
    1. 解除条件説
      時効によっていったん生じた権利の得喪変更が、時効利益が放棄されると確定的に覆ると論ずる(つまり、援用がなされないことを解除条件として、時効による権利の得喪変更が生ずる)。
    2. 停止条件説
      通説・判例がこの見解を採用するといわれる。時効による権利の得喪変更は、援用を停止条件として生ずると論ずる。
  3. 法定証拠提出説
    時効は実体法上の権利の得喪変更原因ではなく、訴訟法上の証拠方法であり、援用はこの法定証拠の提出であって、援用が必要とされるのは弁論主義の表れの一つにすぎないと論ずる。しかし、民法の文言に全く整合しないという批判や、攻撃防御方法説と同じ批判が向けられている。